誰かの家計簿 昭和29年

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密かな趣味がある。ヤフオクで誰か知らない人の個人的な記録が残ったものを手に入れることだ。日記でもなんでもいい。なるべく書き込みの多いものがどきどきする。

最近手に入れたものは、昭和29年(1954年)、主婦の友(新年特大号)付録の「家計簿」だ。1月から12月の1年間の家計簿が記録されている。ごく普通の内容で、生活費やお小遣い、移動費などが記録されている

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どこかの学校に通っているらしい息子と娘へのお小遣いが月1度必ず書かれていることから2人の子どもがいることがわかる。また、移動費には阿佐ヶ谷と高円寺の往復が多くあり、中央線のそのエリアに住んでいることが伺える。8月や9月に毎日のようにきゅうりやナス、蚊取り線香、10月にはサンマを頻繁に買っていることに季節を感じる。年末には年越しそばやお刺身を買っていた。こんな感じで家計簿からかつてあったその生活を想像する。

この家計簿をつけていたのはどんな人なのだろう。1950年代の平均初婚年齢が23歳なので、子どもが2人いて大学生ということは40代だろうか。もしご存命なら100歳オーバーだ。家計簿の下部分が日記になっているのだが、ほとんど記入されていない。しかし、数ヶ月に1度ほどのペースで書かれることがある。この月は、伊勢丹でスーパースピード手編機を買ったことを記録していた。思わず書きたくなるほどわくわくしたのかもしれない。

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友達らしき人と映画を観に行ったことも記録されていた。

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『黒い罌粟』という作品で、調べてみると確かにこの時期に公開されていた。

インクが落ちた跡にも想像が膨らむ。

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思わず、あっ、と声をあげたのではないか。

この家計簿を読んでいると、子ども2人の存在は想像できるのだが、旦那の姿がまったく見当たらない。しかし、数ヶ月に一度、「二人で映画」という書き込みがある。

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夫婦で映画を観に行ったということなのだろうか。それは安易すぎるあまりにも身勝手なロマンチックな予測で、もしかしたらこの家計簿をつけている人の夫は亡くなっている可能性だってある。単純に、子ども2人と映画を観に行ったのかもしれない。

この家計簿は1年かけて記録されているので、そこには死だってある。

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おじいさんお亡くなりになるという記述。家計簿という日常の記録の中に不意に書かれた死は、食パンやバターといった生活の近くにあった。